もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

授乳の記憶

 今思えば悪いことをしたと思うが、子供の頃、授乳しているのを見てしまった記憶がある。4歳くらいか、初めて訪れた親戚の家で、何気なく探検していたときのことだ。団欒の居間を抜け出て、冷えきった廊下の先に曲がり階段を見つけた。子どもだった私が上らない訳がない。2階の部屋は母の従姉妹が使っていた部屋で、結婚して家を出て使っていなかったから、客を迎える部屋になっていた。

 当時の驚きを今でも覚えている。「見てはいけないものを見てしまった」と思ったのは覚えている。しかしその意味は分からなかった。幼かった私は「何してるの?」と言った。若い夫婦は少し驚きながら、赤ちゃんに母乳をあげているんだよ、と教えてくれた。それを見た私は、なにか神聖なことをしているのだな、と感じた。

 その親戚が誰だったのかは分からないし、あえて聞きもしてはいない。「あのとき母乳あげてたの誰だっけ?」と聞けば間違いなく分かるが、さすがにそこまで常識を捨てることはできない。祖母の末妹の家だったからその関係なのは間違いがないが、あれきり二度と会っていない。その子も私と同じくらいにはなっているだろう。それが彼か彼女かは分からないけれど、もしもその人と会うことがあったなら、「この人もかつて母親の母乳を吸っていた」という事実が、私に感慨と可笑しさを与えてくれるだろうと思う。