もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

とんこつラーメンの記憶

 昔々、もう数十年も昔……。父が墓仕舞いのために数十年ぶりに郷里に戻ったことがあった。そのときに父が買ってきたのが、冷凍のとんこつラーメンだった。こう書くと、父の郷里の場所もほとんど分かってしまうのだが。

 子どもだった私には、父が遥か彼方の地から持ってきたそのラーメンが鮮烈に映った。しょうゆ、みそ、しお、とんこつ、それまで食べてきたラーメンとは全く違う、真っ白いスープを見たときの驚きを、今でもはっきりと覚えている。とんこつですら、東京ではしょう油の色が強いものが多かった。

 味はとんこつのコクと嫌味のない香りがあり、しかも脂っぽいはずなのにそれを感じない。かえしは薄口しょうゆベースで、塩味が強かった。麺はまっすぐな細麺。具材はチャーシューとネギだけ。

 子ども時代のことにしては、やけにはっきりと、そのラーメンのことを覚えている。それは、はるか遠方からやってきた、ご馳走だったからだろうか。

 今でもあのラーメンを探し求めて、博多ラーメンだとか、久留米ラーメンを名乗る東京の店を片っ端から訪れているのだが、あの味に出会ったことはない。そもそも、スープの色からして違うのだ。どの店も、どんなに「本場」を標榜する店も、スープの色が違う。あの時、私が見たのは、私が驚いたのは、真っ白い、濃厚なスープだったのだ。

 最近、あれは子どもの私が見た幻想だったのではないか、と思うようになった。子どもだった私が、ご馳走を目の当たりにして感動し、その体験の記憶が繰り返し美化され、作り変えられただけだったのではないか。それでも、もしそのラーメンが実在するのなら、今一度食べておきたいものだと思う。