喫茶店でたまに見かけるのが、注文を聞かれて「アイスコーヒー!」とだけ叫ぶオッサンだ。下手をすると、注文を聞かれる前に座った時点で「アイスコーヒー!」と叫ぶオッサンも居る。紳士とは程遠いこの中年男性を、私はおじさんではなく、あえてオッサンと呼ぶ。
もしもここが対等な関係におけるサービスを前提とした強気な喫茶店で、もしも相手が意地の悪い店員だったなら、この横柄な注文に店員は冷笑を浮かべてこう答えるだろう。
「…………は? アイスコーヒーがどうかしましたか?」
彼が傲慢で居られるのは、周りの人間がそれを許しているからである。客だから仕方がないと諦めるにせよ、相手にするのもバカバカしいと思って機械的に相手をしているにせよ、どんな意図であれ結果としてそれを黙認しているからである。
とはいえ、ここで彼を断罪したいわけではない。それどころか、礼儀や作法をすっ飛ばして自分の要求だけを突き付ける無駄の無さは、彼なりに理にかなったことではあると思う。それが周りに不快感を与えるという問題はさておいても、動機自体は理解は出来る。
通常のやりとりなら、客が席についてから水を置く、そして「後でご注文お伺いいたします」「あ、注文お願いしていいですか?」「かしこまりました。少々お待ちください(端末やメモを取り出す)…………どうぞ」「アイスコーヒーでお願いします」くらいのやり取りはある。が、彼はそれらをすべてすっ飛ばして「アイスコーヒー!」とだけ言う。すがすがしい限りだ。
彼は家に帰ってもそんな感じなのではないか。例えば妻からの「おかえりなさい。今日はご飯にする? お風呂にする?*1」という問いかけに、彼は「ただいま。いやあ、今日は食べて来たからお風呂にするよ」などとは決して言わない。彼は、玄関の扉を開けてすぐに「お前」と言うに違いない。彼の第一声は「ただいま」ではなく「お前」である。
私が彼に抱いた不快感は消し飛んだ。
東京03の「嫌いな上司」というコントでは、嫌いな上司が赤ちゃんの行動と重なってかわいく見え始めるところが観客の笑いを誘う。それと同じように、日ごろ不快だったり怯えたりするようなことでも、見方を変えれば笑い飛ばせるものもあるのかもしれない。

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