もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

ある雨の日

 踵が異様に擦り減った靴を履いている。

 誰かが私を後ろから見れば、きっと馬鹿にするだろう。それも、本心から馬鹿にするのではなくて、一瞬見て鼻で笑うような、無関心な侮蔑。私だって、他人がこんなにすり減った靴を履いていたら馬鹿にする。目の前に、異様に斜めにすり減った靴を履いて、がに股で歩く人間がいるのだから。

 視線を感じるたびに、私は言い訳をしたくなってしまう。連日の雨で靴が間に合わなかったのだと。ローテーションが回らなかったために、泣く泣くこの靴を履いているのだと。そんなメッセージを他人に発しながら歩けたら、どんなによいことだろうか。――いや、そうしたら世の中はメッセージで溢れかえって窒息するに違いない。みな弁解したいことの一つや二つはあるだろう。バーコードハゲのおじさんは残された自分の髪の毛への愛情を語るかもしれないし、汗だくで電車に駆け込んできたお兄さんは自分がいかに切迫した状況であるかを語りたいかもしれない。

 世の中の道行く人がこれを見てくれたなら、一つ願いたい。靴が異様に擦り減った男を見ても、嘲笑うことなく、むしろ憐れみの眼差しで見てやってほしい。そうすれば私は、激しい雨の日にもあなたの靴と靴下がぐしょぐしょにならないよう、祈りを捧げよう。