もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

黒いとんぼ

 黒いとんぼが死んでいた。毎日のように通るいつもの通り道だが、見たことがない。羽は黒く左右に二本ずつ、体はまさにエメラルドグリーンに輝いていて美しい。

 家に帰って調べると、ハグロトンボというらしい。そして緑色に輝いているのはオス。水性植物の近くなどにいるらしいが、一時期は水質汚染などにより減少、東京都においては絶滅危惧二種に指定されている。ちなみに、ネットでは「スピリチュアル! 幸運のとんぼ」などという情報も出てきたが、出会ったときのちょっとした感動が興ざめするので無視。

 いつもの通り道にもじつは豊かな世界があるのだなあ、と思った。ただ、わたしがそれを見ていなかっただけなのだ。

 そうして関心を持ってみると、鷹やら、ムカデやら、カブトムシやら、いろいろな生き物がいるものだ。田舎であればムカデなどいくらでもいるのだが、なまじ都市的生活に毒されつつあるこの街ではなかなか珍しい。いまや多くの人にとって、昆虫自体が縁遠いものになっている。

 夜中の帰り道に、カブトムシを見つけたこともあった。踏み潰すところだった。まさかこの街にカブトムシが生きているとは思っていなかったのだ。

 同じように踏み潰すひとが居るかも分からないから、道のわきに逃がそうと思った。それで木の枝を探して差し出すと、よちよちと上ってきてなんとも可愛らしい。草の陰に下ろして、「もう来るんじゃないぞ」と言った。夜中の出来事だ。誰かがみていたら、変なやつだと思ったに違いない。

 じつは私は虫が大の苦手なのだが、カブトムシなどは比較的可愛いものだと思う。セミと違ってほとんどこちらを驚かせに来ない。この点、虫嫌いのひとたちに「嫌いな虫」を聞いたら、ゴキブリとセミあたりがツートップではないかと思うのだけど、どうだろうか。もちろん、致死的という点で言えばスズメバチだとか得体の知れない虫など枚挙にいとまはないと思うけれども。

 そんなこんなで、自然はまだあるのだなあ、と感じた。ますます無くなりつつあるのも確かなのだが……。