夜に爪を切ると、親の死に目に会えない、とよく言う。レファレンス事例によると、じつは地域によってバリエーションがあるらしい。いわく、夜に爪を切ると、「親の死に目に会えない(各地で言う)」、「牛の爪になる(和歌山県)」、「思う事が叶わない(山梨県)」、「怪我をする(青森県)」、「盗賊が入る(千葉県上総地方)」、「長病気する(石川県)」、「早死にする(福島県)」「夜道が怖い(京都府)」など地域によって異なる俗信として多数列挙されている*1。
「そんなのは迷信だ」などとこの説を排するのは勝手なのだけど、だからといって夜に爪を切らないでほしいものだ。静まりかえった夜に爪を切る音がどれほどやかましく響くか、想像してほしいものだ。
夜でも明かりがあるものだから、つい夜であることを忘れて物音を立ててしまうらしい。わたしたちはその無神経さに腹を立てるのだけど、わたしたちは日中彼が寝ているあいだに物音を立てているのだから、おあいこではないか、という気もしてくる。日中に活動するのは当たり前ではないか、とわたしは断固として抗議したいのだが、それは彼が日中に感じる不快感を軽減することにはならない。
とにもかくにも、わたしは夜に爪を切るこの人物に心底腹が立ち、「親の死に目に会えないのも当然だッ」と内心で憤慨しながら、布団をかぶって寝た。