もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

回転寿司にて

 夕食に少しだけ高級な回転寿司に行った。食事時で満席なのに板前が二人しか居ない。それで嫌な予感はしていたが、案の定、注文した品がいくら待っても来ない。私は板場に注文の伝票が溜まってゆくのを見てひとり苦笑いしながら、気長に待とうと覚悟を決めてスマートフォンをいじっていた。

 するといきなり奥の方から体格のいい別の板前が来て、緊迫した声で「代わって!」と言った。そこからが凄かった。見る見るネタが握られてゆき、増えゆくばかりだった伝票が減り始め、「ご自由におとりください」のわさびしか流れていなかったレーンには人気ネタのサーモンやぶりが流れ始めた。板前が変わっただけで店内が劇的に一変した。ベテランと新人にはそれだけの差があるのだと感じ入った。

 例えて言うなら、熾烈な戦場に鍛え上げられた戦士と、ただただ戦場に圧倒されて呆然と立ち尽くす一兵卒の差のようなものかもしれない。

 気持ちの上で言えば、仕事を戦いに、仕事場を戦場になぞらえるのは、相応しいように思う。予定通りに進むことなど全く無い。そもそもすべきことが目一杯あって、しかも毎日予定外の出来事が突発的に起こる。そのなかで何とか目標を達成しようと誰もが懸命に働いているのだ。そうした責務を背負う人たちには、新人だろうとベテランだろうと緊張感が流れている。ただ、鍛え抜かれた戦士と一兵卒の間にはあまりにも大きな隔たりがある。それは戦況を一変させるほどの力の差だ。それでも、一兵卒もやがては戦士となるのかもしれない。人間の適応力と言うか、可塑性と言うか、成長する力にはつくづく驚かされる。むしろ、それだけの時間を私たちは与えられている、と言うことなのかもしれない。