もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

健康診断

 これは誰にも言えないことなのだけど、私は今、尿検査キットを持ち運んでいる。尿を持ち運んでいる。この緊張感は数十万円を運んでいるときのドキドキ感とかなり近いものだと、今、感じている。

 そもそも、自宅で朝一番の尿を採り、それをわざわざ離れた指定の医療機関に持って行かなければならないなんて、こんな馬鹿なことを何故しなければいけないのか。尿検査の説明書には朝一番の中間尿がどうのこうのと、丁寧に書いているが、要するに「自宅からここまで尿を運んで持って来い」ということで、これはどういうプレイだよと医療機関に文句を言いたくて仕方がない。

 おまけに、私の順番は午後2時からだから、朝一番の尿を6時間以上も持っていなければならない。実際、もうすぐ7時間だ。私の頭には疑問しか浮かばない。

 雑菌が繁殖するのではないのか……? 検査結果に支障があるのではないのか……? 用事で朝からでかけている私に、尿を持ったまま他人と過ごせと言うのか……? 尿を持ったまま、他人と昼食を取れというのか……? きっちり蓋をしたはずの尿検査キットから、万が一、尿が漏れ出たらどうするのか……?

 こうした疑問が、絶えず頭の中をぐるぐる回っている。今も、食べ物の匂いやら、コーヒーの匂いやらが私の嗅覚を刺激するたびに、私のカバンから尿の臭いが漏れ出ているのではないかと、気が気ではない。

 これを書いている今も、検査時間を待つべくスタバで時間を潰している。尿を持ったまま。店員がときどきテーブルを拭きに来ると、慌ててスマホの画面を消す。万が一、尿が尿がと書いているこれを見られたら、やばい奴認定間違いなしだ。店員のあいだで面白おかしく共有されるに違いない。あいつは尿を持っているぞ、と。

 こういう酷い仕組みの尿検査を受ける人は私だけではないはずだ。とすれば、他の人はどうしているのだろうか。平然と、当然の務めだと言うように、尿を運んでいるのだろうか。当たり前だが、外見から「あの人は尿を運んでいるな」と分かることはまず無い。私もうまく誤魔化せていると信じよう。けれども、本当は、私は尿を運んでいる。

 ようやく、検査時間が近づいてきたので、そろそろ医療機関へ向かうことにする。尿のおつかいもここまでだ。ざまあみろ。

 それでは、良い一日を。