かずき さんの「籠の街」をクリアしました。
大人になりたくない少年の物語。
綺麗なグラフィックとメッセージのあるシナリオで、楽しめました。やっぱりこう、作り手からガツーンと来るものをやると、楽しいです。
以下、ばんばんネタバレしています。クリア後に読んだら、「そりゃ違うやろアンタ!」みたいにツッコめて面白いかもしれませんが、クリア前に読むと楽しさが激減してしまいますのでご注意頂ければと思います。
また、整理されたレビューではないので悪しからず。
攻略順は、坊や→おばあちゃん→お嬢様→旅人。一番無関係そうな「坊や」から行ったのは正解でしたが、readmeによると、おばあちゃんは後のほうがよかったっぽい。
まず最初に、共通ルートの話。
「きっとスイッチが入るみたいに、子どもから大人に変わってしまう」みたいな話があります。これはテーマなので覚えておくと面白くなりそうです。あと途中、「ははぁん、このお嬢様、主人公のこと好きなんだな(ニヤリ」みたいな感じで楽しめます。淡い恋になってしまうのですけどね。
あとは、やっぱりちょっとしたセリフへの違和感。毎日同じような朝ですしね。嫌な予感当たっちゃいました。
■坊やルート
初回ルートということもあり、基本的な情報を入手できました。
同じように繰りかえされる朝、絶対何かある。
主人公の夢は「タイムスリップ」。坊やの夢は大人になること。「これなら絶対に叶う」と、坊やは言うのだけど……皮肉にも、坊やが叶うと思って疑わなかったこの夢は叶わないのよね……。
「やって見なきゃ分からない」「大人になりたい」というのが坊やの特徴だと思う。主人公との対比でみると印象深い。主人公、心が痛いだろうなぁ。ちなみに、「花屋さんのところの……」というセリフで、主人公の家は花屋さんだったんだと気がついた。
グッドエンドでは、ある意味主人公にないものを坊やは持っているんですよね。「兄ちゃんは立派な大人になるんだよ!」みたいなことを言うけど、このあたり思い出しつつトゥルーエンドを見ると泣く。
■おばあちゃんルート
まず、亡くなった主人公のお母さんの料理を再現する場面が印象に残った。「でもね、ウェイト。この子らも、アンタを残して死にたくなんてなかった。誓ってもいい」。その料理をいつか自分の子どもに伝えてやってほしい、そうすれば、あの子たち(主人公の両親)は心のなかで生き続けるのだから、と。
これ、おばあちゃんのことでもあるんですよね。おばあちゃんが主人公に必死に料理を教える理由だと思う。そして、おばあちゃん、体調崩してる……。
お待ちかね、喧嘩タイム。主人公怒りのBGM、バルトークの「アレグロ・バルバロ」。お嬢様に八つ当たりする姿、ちょっと坊やと被る(笑) けど、この尋常じゃない怒りようは、主人公自身のトラウマと向き合わざるを得ないから、と考えてもよいかもしれませんね。作者様がどこまで意図されているかは分かりませんが、おばあちゃんが居なくなったことを考えるのが嫌で拒否反応を示している、と見ることも出来そうです。
そして亡き我が子ら(主人公の両親)に、自分が間違っていたのかと問いかけるおばあちゃん。自分が死んだ後の話をするおばあちゃん。 「そうやって自分の体を盾に抗議だなんて通用しないんだよ!」、主人公を案ずるからこそですねぇ。ちなみにノーマル(バッド?)エンドはやっぱり甘やかしエンド。時間はたっぷりあるって、トゥルーエンドまでやると皮肉なことだと悲しくなるところですね。
「大人は『子供の延長線』なのさ」、これは冒頭の主人公の疑問の答えであり、キャラクターを通して作者の主張を感じますね(偏見)
■お嬢様ルート
やっぱりこのルート、先にやるべきでした。坊やの個性とお嬢様の個性の違いを比べてからおばあちゃんルートへ行くと、スッと考えが進みそうだなと思いました。
さて、遺産を狙うよからぬ輩どもからの手紙。たかが庭師を疎ましく思わぬ輩ども。身分を超えた恋、いや、まだ恋とすらいえない何か。ロマンですね(ぉぃ) 相手を愛するがゆえに相手の気持ちを不安に思う。ロマンですね(ぉぃ)
ただの恋愛ルートかと思いきや、ここでも考えが提示されます。生きることとは思想のぶつかりあい、戦いなのだという話。防衛機制で言う投影を思い出します。悪しき自分を認めたくなくて、それを知らないうちに他者に投影してしまう。それを「理解」と「許し」でねじ伏せるのだ、という考えでしょうか。そしてやっぱり、体調崩してますね。あと、手紙の内容はどう感じるか、ですねぇ。
そしてまた「時間はある」。でも、お嬢様ルートはどちらもハッピーエンドという感じですね。
■旅人ルート
いよいよ全貌が明らかになります。「この街の時間を止めている」。おばあちゃんの対応もなんだかほかのルートと違います。「でもお前、この街に住み続けるってことは、」。その意味は。
旅人は夢を叶え(何の夢かは言うまでもないですね)、そこで使命に気がついたと言います。その使命ゆえに、故郷に帰れないと。また、その使命を為すべきかも迷っていると。主人公は籠のなかにいたほうが幸せなのではないか、ということですね。
やはり、このルートはおばあちゃんルートのあとにやるべきでした。つらい現実と向き合わせようとするおばあちゃんの姿と、旅人の姿が重なりますからね。「努力もせずに、居場所が与えられると思っているのか」、これはお嬢様ルートを思い出しますね。
そして手紙。お嬢様はフローレンス家のフリージアだということが明らかになりましたね。それにしても、やっぱり私は坊やに感情移入しちゃいます。もちろんみんないいんですけど。きっと、坊や(ちぇるしゃ)はおばあちゃんやフリージアから字の書き方を教わりながら書いたと思うんですよ。
2回やるといろいろ楽しい
それで最初に振りかえると、最初のセリフの状況が明らかになるわけですね。
2回やるといろいろ楽しいです。例えば、主人公が持ってきた料理を食べたときの旅人の反応とか、「なるほどなぁ」と思わされます。
あと、主人公が「僕には皆んながいてくれますから」って言うと、お嬢様は「……そう、ね」って、ちょっと沈黙しているのですよね。物語全体からしたらけっこう序盤ですけど、このあたりでもちょっと陰が垣間見えます。
朝にしても、「今日も皆が待ってる」みたいなことを言うんですけど、ちょっと変な気がするんですよね。いくら皆がウェイトを好きだとはいえ、です。なんでかって考えたら、妄想の「みんな」だから、ではないかと……。
旅人はどうやってきたのか
そして旅人がどうやってきたのか。なんのために来たのか。これも明らかにされていますね。ウェイトは旅に出て、タイムスリップを開発して夢を叶える。そしてその使命は、過去のウェイトとともに旅すること。なのですべきことをしても帰れないのですね。
おそらく、一直線的な時間観なのですね。だからバッドエンドでは「さよなら、ウェイト」みたいなことを言っていますけど、それは少年ウェイトがいずれ餓死するということであり、自分の消滅をも意味しているのではないでしょうか?
そもそも論として、タイムスリップなんて出来っこない、ということですけど、それにはおばあちゃんが「分かんないよ、技術はこれからどんどん進むんだから」と言っているのが、一応の回答でしょう。
すべては妄想か
単に妄想で片づけるには不思議な部分もあります。例えば、おばあさんやフリージア(お嬢様)は、妄想世界では流行り病を乗り越えたはずなのに咳込んでますね。このあたりの時系列はどうなっているのかということです。答えをいくつか考えてみました。
・主人公の妄想の亀裂(普段は妄想で生きているけど、ときおり現実を意識してしまう)
・ミスリード(おばあちゃん・お嬢様、死ぬんじゃと思わせてからの真相)
・こまけぇこたぁいいんだよ
ほかの方のレビューを調べていたら、どこまで妄想なのか、という興味深い問題提起がありました。私は坊や・お嬢様・おばあちゃんの3ルートは妄想(ご飯とかは食べてるけどいずれ餓死)、同時系列で、旅人ルートだけが現実ではないかと思います。そう考えれば「籠の街」としてスッキリ整理できます。
拾いきれてない部分、たくさんありますが、楽しかったー!