侍タイムスリッパー
11月4日、TOHOシネマズ 日比谷で「侍タイムスリッパー」を観た。自主製作映画として池袋シネマ・ロサで上映され、そこから話題になって全国200館以上で上映されたという。長州藩の武士と果たし合いを繰り広げていた会津藩の武士が、突如現代の時代劇撮影所にタイムスリップし、斬られ役として名を挙げてゆく。
感想。ベタなコメディで安心感のある笑いを誘いつつ、しっかりと時代劇への愛情が込められていて面白かった。作中、かつて時代劇で名を馳せたスーパースターの風見恭一郎がカムバックして時代劇の再興を誓うのだけど、その打ち上げでの演説が本作のメッセージだと思う。オフィシャルサイトのキャスト欄で裏方のスタッフも詳しく解説されているのは、こういう映画ならではかな?
レビューを見ると、なぜタイムスリップしたのかとか、現代に馴染むのが早すぎるとか、笑わせるセリフがベタだとか、結末がどうだとか、そのへんを気にする人は楽しめないと思う。
2度目のはなればなれ (The Great Escaper)
11月14日、TOHOシネマズ シャンテで「2度目のはなればなれ」を観た。かつて第二次世界大戦に参加した退役軍人の老人バーナードが、フランスでノルマンディー上陸作戦70周年記念式典が開かれることを知り、命がけで海を越えて過去のトラウマと向き合う。
小説にしても映画にしても、最近老いをテーマにしたものが多い気がする。老いとともに生じる人生への後悔と、どう生きるかというテーマは、高齢化という意味では現代的でもあり、死生観という意味では普遍的でもある。加えて、第二次世界大戦の体験者は極めて少なくなっていて、歴史に刻まれた傷跡も忘れ去られつつあるという危機感もある。
戦争が人に残す傷痕は、その人にとって一生癒えることが無いものだ。若く屈強な男はもちろんのこと、長い時間をかけて傷が癒えたかに見える老人であっても、実はトラウマは全く消えずに残っている。主人公は始め、トラウマに苦しむのは自分だけかと思ったかもしれないが、旅の中で誰もがそれぞれにトラウマを抱えていることを知る。
マスメディアは、たったひとりで記念式典に行く老人(主人公)を美化するのだが、当の本人にとってはそんなものでは有り得ない。人生の最後に人生最大の遺恨と向き合うのは、壮絶な覚悟を要する。また、妻のレネの容態も主人公バーナードを迷わせる一因だった。レネはそれら全てを見抜いたうえで、自身が永くないことを知りながらも、夫に「行きなさい」と言う。このあたりの重みを無言で演じられるのは流石としか言いようがない。
ところどころにユーモアを挟みながら、軽やかに物語は進んでゆく。けれど、その背後にある一人ひとりの物語を想像するのなら、戦争がいかに人間を破壊するか(それは、生き残った人でさえも)ということを考えずには居られない。