もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

読書日記 - 平野啓一郎「本心」

 

 小説はあまり読まないのだけど、読んでみたら面白い面白い。亡き家族や友人を蘇らせる(幽霊も含めて対話可能という意味で)物語自体は数えきれないほどあるけれど、この本が面白いのは、AI、高齢化、自由死、格差社会移民問題フレーミングといった現代的な問題がきれいに盛り込まれているところではないか……というのはつまらぬメタ的な感想。結局のところは「心とは何か」「私たちはどう生きるか」という問いに突き当たる。

 でも、三好とイフィーの最後はどうなのかなぁ。トラウマが強固で有り得ないと思っていたら、そうでも無かった。朔也は信頼する人の息子で、経緯からしても例外的だとしよう。となると、「そっちに行くかねぇ?」というのが一読した現時点での感想。イフィーの立ち直りの早さも、なんだか表情の変化が早すぎてAIみたいだなと思ったり。私も「本心」を探りながら読んでしまった。朔也もそれでいいのか? 恋愛においては他者の心に土足で踏み込まなければならない瞬間があるのでは、などと浅はかな誤読、浅はかな理想論をこねくり回してしまう愚かな私。もう少しちゃんと読み込みたい。

 メッセージは「最愛の人の他者性と向き合うあなたの人間としての誠実さを、僕は信じます (p. 441)」というセリフに尽きる気がする。最愛の人ですら、知らないことは山ほどある。多角的に情報を補足して統語論的に「本心」を浮かび上がらせようとする試みは拍子抜けするほど間抜けな結果に終わる。けれど、その足跡自体が、最愛の人の他者性と向き合っているということに、結果的にはなっていた……、ということなのかな、と思った。

 

本心

本心

Amazon