もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

靴磨きの思想

 今日は休みだ。朝8時に起きて、鍋で作ったミルクティーを飲んで、布団を干して、靴を磨いたら、既に10時、汗をかいたので軽くシャワーを浴びて、この記事を書いたらもう昼時になるだろう。

 私の趣味の中でも、散歩と並んで地味なものが靴磨きだろうと思う。こう書くと本格的にやっている人に対してあまりにも失礼なのだけど、靴磨きほど個人的な楽しみというのも無いと思う。いくら磨いたところで、同じ趣味を持つ人ならともかく、一般の人から靴を褒められることなど殆ど無いし、メリットと言えばただ単に自分にとって履きやすくなるのと、自分の靴への愛着が湧くことくらいしかない。その趣味は自分のなかで完結している。けれど、それが靴磨きの魅力であるようにも思う。

 靴磨きほど孤独で、気持ちを整えるのに良い趣味は無い。不思議なことに、靴を磨いていると雑念が消えてゆく。

 趣味と言っても、私の靴磨きは本格的なものではない。ただ、日々の手入れとして、楽しんでいるというだけのことだから、それは趣味ですら無いのかもしれない。

 靴磨きの思想、と言うほど大袈裟なものではないが、私の考え方は、シンプルな手順で、こまめに手入れをするという方針である。例えて言うなら、家族サービスとして年に一度だけ旅行に連れてゆくよりも、日ごろのゴミ出しなどを徹底しよう、ということである。もちろん理想を言えば、完璧な手順でこまめに手入れをするのが良いし、家族旅行に連れて行ってゴミ出しも欠かさずやるというのが一番良いのだろうが、私はそこまで出来た人間ではないので、自分の出来る範囲でバランスをとって選択している。

道具

 道具は至ってシンプルで、以下の通り。

  • 靴用クリーム……革に栄養を補給する
  • 竹ブラシ……塗ったクリームを広げる(歯ブラシ型。柄が竹製で、ブラシが歯ブラシよりもかなり硬い)
  • 豚毛ブラシ……クリームを馴染ませる
  • クロス……拭き上げる

 インターネットの記事などを見ると、これよりもはるかに多い道具と手順で解説されていることも少なくないが、私は削ぎに削ぎ落としたこの4つの道具だけを使っている。よく分からないが、とりあえずクリームとクロスはモゥブレイのもの、竹ブラシと豚毛ブラシは靴メーカーのものである。

手順

 手順、というほどのものは無くて、道具を使ってゆくだけである。

  1. クリームを塗る(塗りすぎない。つま先と左右の3か所に、”ちょん”と乗せる)
  2. 竹ブラシで広げる(薄く広く、ひたすら延ばす)
  3. 豚ブラシで磨く(輝いてくる)
  4. クロスで拭き上げる

 

 この手順は私が靴屋で教えて頂いた手順で、私が「靴磨きの思想」と言ったのも、要はその靴屋の思想の受け売りである(笑)

 おしゃれでありながら、とにかく実用性を重視する。靴自体も頑丈で、故障した際のメンテナンスもしやすいように作られている。まさに質実剛健を地で行くような姿勢に共感を覚えた。

 18歳の時に初めて自分のお金で革靴を買った。冷や汗をかきながら、お店の人に相談に乗ってもらったのを今でも覚えている。それから10年以上が経ってから、2足目の革靴を買った。二足目の靴は一足目のものよりも少し上等で、ソールも一足目はラバーだが、二足目はレザーにしてみた。微妙な違いはあるが、どちらも黒のストレートチップで、見た目にはほとんど同じである。なぜどちらも同じかと言えば、色が違うと道具が増えてしまうし(道具は色ごとに用意する必要がある)、特殊なスタイルだったり、綺羅びやかな装飾の施された靴は、かえってコーディネートが難しくなると思うからだ。まあ、衣服に無頓着な私がコーディネートなどという単語を発するのもおかしいのだけど。

 他の人は分からないが、革靴は最初酷くきつくて、かかとが擦れて皮が剥けることもあった。けれど、手入れをしながら何年も履きこんでゆくうちに、だんだんとフィットしてきた。おそらくソールが沈んだり、革が柔らかくなって馴染んできたのだと思う。

 10年ほどが経って、ようやく革靴の魅力をひとつ理解した気がした。包み込むというよりは、もっとキュッとするし、締め付けるというほどでもない。フィットする、という表現が相応しいように思う。二足目を購入したのも、そういうことに気がつくようになったからである。

 これが世間一般の言う「おしゃれ」に当てはまるとは全く思わないし、むしろ世間からすれば同じような服と靴ばかりを履いて「ダサい」方だとは思う。けれども、私は私の思想に基づいて、私なりに「着ること」を楽しんでいる。ちょうど森茉莉さんが贅沢貧乏という言葉で表したように、美しさに対する自分なりの思想を確固たるものにしてゆきたいと願いながらも、日々忙殺され、極めて俗物的に生きる日々である。