もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

F. Liszt - Grande fantaisie de bravoure sur La clochette, S.420

 毎度ただの日記で大した情報は書けませんが。F. Liszt - Grande fantaisie de bravoure sur La clochette, S.420*1 を公開しました。「ラ・カンパネラ」の最初のバージョンにして最難曲。最近はこの制作に集中していて、書きたいことはありながらもブログからは少し遠ざかっていました。

 パガニーニの圧倒的な演奏を聴いたフランツ・リストが「ピアノのパガニーニになる」と叫んだという逸話は(事実はさておき)よく知られているところですが、このパガニーニ関連の作品の中で最も早い時期に作られたのが、この「大幻想曲」です。

 この作品があまり知られていないのは、音楽としての面白みに欠けるからだという指摘(サロン的と言われることも……)もあるかもしれませんが、なにより物理的に難しすぎて、演奏される事自体が少ないのが一番の理由ではないかと思います。十度を超える和音が平気で登場しますし、その上でそれぞれ細かな動きを取る複数のパートを片手で弾き分けることが求められる箇所もあります。無理!

 私がこの作品を打ち込もうと思ったのは、弾けない作品として有名になりすぎたこの作品を自分なりに表現してみようという思いつきからだったのですが、打ち込んでゆくとその面白さに惹き込まれてゆきました。

 こんにち知られるあの「ラ・カンパネラ」のテーマを、パガニーニの演奏に触発されたばかりのリストはどのようにアレンジメントしたのか。ピアノの可能性を限界まで引き出そうと決意したであろうリストの情熱を、素人なりにせよ、この楽譜から掬い上げてみたかったのです。

 聞きどころは随所にありますが、聴いて頂きたいのはフィナーレのagitazioneからの部分です。この部分だけは、既存の演奏にはないイメージを提示できたと、勝手に思っているのです……。人間が弾けるかを度外視して、私が格好いいと思うように、ぶっ飛ばしました。

 どうしても打ち込みですから機械的なものではありますが、要所要所でしっかりメッセージを込めたつもりです。少しでも多くの人にこの曲の存在を知って頂き、さらに面白いと思って頂けたら、私は大満足です。(以下、動画・メモ)

 


www.youtube.com

 長いので、再生しながら読んでいただければ幸いです(^^;)

はじめに

 全体は大まかにいくつの部分に分けられます。序奏、テーマ、変奏、フィナーレの4つです。動画の説明文では、フィナーレが長大なので、さらにフィナーレ後半のリトルネロで区切りました。

 私はこの曲、ニコニコ動画のコメント付きの動画が好きなんです。とりわけ「こんなんサロンで弾かれたら、紅茶噴くわww」みたいなコメントがお気に入りです。ともすれば冗長な作品ですから、他の方のリアクションがあったほうがとっつきやすいと思います。もちろん、じっくり一人で向き合うのも楽しいですけどね。

感想

序奏

 序奏はとてもゆっくりなのですが、最難曲と期待した人があくびをするであろう頃にいきなりやってくるリスト節(下画像)。

 

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40小節目から

 序奏最後のオクターブはあえてペダルを使わず、叩きつけるように表現してみました。

テーマ

 長大な序奏を経てようやくおなじみのテーマが登場しますが、10度余裕でつかめないと無理なのでは……。

パガニーニ風変奏

 パガニーニ風の変奏 (Variation a la Paganini) は、今回の打ち込みで取り組みたかった部分の一つです。ここを超スピードで、格好よく表現したかった。125小節目(下画像)の手の交差は、「名曲探偵アマデウス」でも無駄な手の交差だと指摘されていた部分です。左手を交差させると、映えるんですね。それは聴衆に魅せるためのパフォーマンスであり、ヴィルトゥオーゾであったリストの姿をよく表していると。ピアニストからすれば、やはり右手で弾けばなんともない部分なのでしょうか? そんな、興味深い部分です。

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125小節目

 まあ、そのあとがまたエグいんですけどね(下画像)。なんじゃこりゃあああ、と思いながら打ち込みました。

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127小節目から

 このあとの dolce con grazia の部分もお気に入りポイントの一つ。sempre pp il basso など、わざわざ書いているんですよね。この後も滅茶苦茶格好いい(語彙力)のですが、ひとまず終わり。

フィナーレ

 突然fffでフィナーレが始まります(下画像)。フィナーレと言いつつ、曲のほぼ半分を占めています(笑) 168小節目からの部分は、譜面通りにアクセントをつけてみました。人間ではなかなか技術的に難しいこうした箇所の表現も、今回やってみたかったことの一つです。

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167小節目から

 今回(私が後で確認した限り)既存の演奏と一番異なるのがこの184小節目の部分(下画像2小節目)です。私はここをアルペジオの和音だと勝手に見なして表現しています。あと細かいですが左手オクターブ下のホ音も追加しました。これは荒唐無稽な話ではなくて、このようにわざわざ音価を変えて記譜していることと、オッシアがアルペジオで書かれていることも踏まえて、「こうしてみた」という程度の試みです。最後にイ長調で繰り返されるときも同様です。

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183小節目から

 そのあとに、もう、これ(下画像)。「詰め込める音を全部詰め込みました!!」というようにしか受け取れないのですが、どうなのでしょう。弾いてみたら案外簡単なのでしょうか?(そんなわけない) ここも左手が物理的に届かないわけですが、これも届くという想定でノンアルペジョにしました。15度ぐらい届いて、全指が完全に独立して動ける。あるいは、指が届かないなら手を増やせばいいじゃない的発想。それにしても、このあたりの処理はすごく即興的という感じがします。このあとのマルテラートからのffffからの展開も個人的お気に入りポイントです。ff sempre のところは、もう勝ち誇って、意気揚々と弾かないといけませんね! 大興奮です。

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198小節目から

 リトルネロのこの装飾音(下画像)も、既存の演奏はこの後と同じように32分音符で弾いているものがほとんどだったと思いますが、私はあえて装飾音ということで短くしておきました。

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283小節目から

 あとは fff con bravura のためにペダルは使いすぎずに、ここぞという時までとっておきました。最後の staccatissimo は超速で、ノンペダル。これは最初から決めていました(笑)

 

 細部はもっともっといろいろありますが、こんなところです。よくない点もありますが、出来たことも多くあります。楽しみながら制作しました。ただし、フィナーレあたりから譜面が真っ黒すぎて、もう作ることは出来ないでしょう……。

 

 

*1:ウィキペディア日本語版の訳(2021年10月時点)では「パガニーニの「鐘」によるブラヴーラ風大幻想曲」となっていますが、意味としては「「鐘」による華麗なる大幻想曲」くらいではないでしょうか?