もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

「刑吏の社会史」「当世書生気質」「子どもの貧困II」

07/07 : 阿部謹也「刑吏の社会史」

◆共同体の傷を修復するための儀式としての「処刑」をおこなう「刑吏」が、長い時間をへて、共同体から排除(市民権を認めない)されるほどに忌避されるようになったのはなぜか。つまり、神の使途として現れた刑吏が、どのようにして忌避の対象となったのか。人びとにとって「処刑」や「刑吏」はなんだったのかということを探る一冊。

◆刑吏という職業が生まれ、人びとが抱く刑吏へのイメージが変化してゆく。そしてその背後には、都市の成立のなかでの刑吏が公務員的な位置づけになっていったことや、純粋な市民(けがれのない市民)たちからなる同職組合の結成、あるいは土着の神とキリスト教的平和観の衝突などがあった。「社会史」の面白さが詰まった一冊ではないかと思います。


07/09 : 坪内逍遥当世書生気質(とうせいしょせいかたぎ)」

書「ヤ須賀。君も今帰るのか。」
須「オオ宮賀か。君は何処(どこ)へ行つて来た。」
宮「僕かネ。僕はいつか話をした書籍(ブック)を買ひに丸屋までいつて、それから下谷の叔父(おじ)の所(とこ)へまはり、今帰るところだが、尚(まだ)門限は大丈夫かネエ。」
須「我輩(わがはい)の時計(ウオツチ)ではまだ十分(テンミニツ)位あるから、急(せ)いて行きよったら、大丈夫ぢゃらう。」 宮「それぢゃア、一所にゆかう。」
須「オイ君。一寸(ちょっと)そのブックを見せんか。幾何(なんぼ)したか。」
宮「おもったより廉(れん)だったヨ。」
須「実にこれは有用(ユウスフル)ぢゃ。君これから我輩にも折々引かしたまへ。歴史(ヒストリー)を読んだり、史論(ヒストリカル・エッセイ)を草する時には、これが頗る益をなすぞウ。」
宮「さうサ、一寸虚喝(ほら)の種となるヨ。」
◆恋愛あり、笑いとハプニングあり、人生論あり・・・登場人物には、まじめで繊細な人もいれば、どうしようもないくせに口だけ回る人もいる。そこには人間や社会の姿があるといってもよいと思う。◆そして、そうしたありのままの人間の立ち振る舞いを創作して描き出すというのが、著者が「小説神髄」であきらかにした立場です(たぶん)。それは、それまでの文芸作品を乗り越え、勧善懲悪というメッセージありきの物語を乗り越えるということ、著者が近代文学の祖だといわれるゆえんはここにあるのでしょう(たぶん)。

◆と、そんな小難しいことを考えずとも、書生言葉(書生が使う、方言やら外国語やらが混ざった謎の言語)が面白いので、どんどん引き込まれる。本書に登場する書生の一人が、友人が購入した本をみてひとこと。「これは実にユウスフル(有用)ぢゃ」。


07/18 : 阿部彩「子どもの貧困II――解決策を考える」

 しかし、日本とオーストラリアの違いは、オーストラリアでは貧困層に給付を行うことは「当然」と思われているのに対し、日本においては貧困層への給付も厳しい目にさらされることが多いことである。[...] すなわち、高所得層をも対象に含めた普遍的な現金給付制度にも批判的であるし、貧困層のみをターゲットにする選別的な現金給付制度にも好意的とはいえない (p. 115)
◆貧困の原因は、個人にあるのだろうか。それとも環境にあるのだろうか。実際にそれを断言することはできないが、子ども期の家庭環境は、大人になったときの生活環境に大きく影響する。親が貧困ならば、子どもも貧困に陥ることが多い。◆親の貧困から子どもの貧困へと連鎖する過程にはどのような道のり(経路)があるのだろうか。著者が前著「子どもの貧困」で明らかにしたのは、その問いの答えになる要因があまりにも多いことと、そうした要因からもたらされる子どもの貧困が、とりわけひとり親世帯で深刻だということだった。このことは、負の連鎖を断つためには(現金給付だけではなく)さまざまな支援が必要だということを物語っている。

◆本書は、その問題意識を受け継いで解決への道のりを探り、読者に呼びかける。こうした問題を放置することは、社会的なコストが増えることにもつながる。だとすれば、どの段階で(未然に防ぐ制度か、あとから救う制度か)、誰に対して(広く浅くか、狭く深くか)、なにを(現金か、モノ・サービスか)、どのような支援をすればよいのかを考えなければならない。しかし、それぞれの選択肢は一長一短だから、明確に「この方法がよい」と答えることは難しい。また、その支援の成果をどのように評価するかといった政策評価の問題もある。

◆社会政策や社会福祉に関心がある方が読むと刺激になると思います。また、それ以外の人にとっても、現金給付などの大きな問題に再考を迫る(つまり、賛否両論が巻き起こりそうな・・・)一冊ではないかと思います。


気になった図表

気になった図表から、本書でいわれていることと自分用メモを記録

図表2-4 (p. 61) : 自分が40歳になったとき「やりがいを感じる仕事をしている」と思う中学3年生の割合(親への質問)
→ 相対的貧困層に属する親は、自分の子が40歳になったときに「やりがいを感じる仕事をしている」と「思う」割合が低い(つづく図表2-5によれば、子ども自身も同じような傾向を示している。”がんばっても仕方がない”ということか)
→ (メモ) いっぽうで、親の場合は「やりがいを感じる仕事をして”いない”」と「思う」割合も低い

図表3-4 (p. 93) : アメリカにおける対貧困プログラムの収益性(推計)
→ 生涯所得が大幅に増加するプログラムでも、費用対効果でみると望ましいとは限らない
→ (メモ) 大学授業料の1000ドル削減の費用対効果(≒生涯所得の増加)が意外と高い

図表7-2 (p. 191) : 世帯所得別学校外学習費
→ 塾や習い事などの学校外学習費は、早くも小学校の時期から大きな格差がみられる
→ (メモ) 私立中学校だけがほぼ横ばいにみえるのが不思議

貧困の連鎖の経路 (本書第2章より, pp. 35-66)

子どもが貧困状態に陥ると、どのような悪影響があるのか? 親の貧困と子どもの貧困をつなぐ要因(経路、因果関係)の一部(この経路の解明・立証はきわめてむずかしい)
*) 図のなかの「?」は、本書で「検討が必要」などとして疑問視されているもの。
**) 該当箇所を参考にして適当にまとめただけなので、内容の正確さは保障できません (汗)