もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

読書日記 7月前半

 最近読んだ本から。

律令国家と隋唐文明

 律令国家の受容と成立を国際関係とともにダイナミックに描き出している。国号「日本」や君主号「天皇」といった、こんにちの日本の基礎がはじめて築かれた。それは、中国や朝鮮との対外的な緊張関係による要請が大きな一因だった。数百年の時間をかけて築き上げられた隋唐の律令制を、言わば"ぽっと出"の日本はどのように吸収していったのか。新書のなかでも久しぶりに骨のある本というか、難しいけれど読み応えがある。

 

アイデンティティと暴力

 アイデンティティは「単一のものではなく」、「選ぶことが出来る」し、「変えられる」、というのが、本書の一番のメッセージだ。アイデンティティを単一視し、人種、民族、宗教、国籍、文化、文明など、特定の枠組みに人びとを還元する見方(センは、還元主義、矮小化などと言っている)は、人びとをたやすく分断し、いとも簡単に争いへと駆り立てる。センの議論が面白いのは、この矮小化の問題を社会科学的な議論にまで掘り下げていることだ。「文明の衝突」論や共同体主義コミュニタリアニズム)もまた、人間を矮小化した見方である点で共通すると指摘している。原風景ともいえるカデル・ミアという男性の悲劇に始まり、単一のアイデンティティに対する疑念を問い続けたセンの議論は、学術的な議論としては「文明の衝突」論や共同体主義への認識など再批判されるところもあるのかもしれないけれど、そのメッセージ自体は一般読者たる私たちも受け止めるべきものだろうと、私は確信する。

 

成瀬は天下を取りにいく・成瀬は信じた道をいく

 本屋大賞の成瀬シリーズ2冊。流行る本のひとつの特徴というか、日常のなかに刺さるものがあって読みやすい。都市と地方、百貨店閉店やコロナ禍など時事的な話題も盛り込みつつ、成瀬のキャラクターが強いのが、本書の面白さの理由だと思う。そのキャラクターが周囲の人物と交錯しながら様々な視点化描かれる。お笑いのコンテストに参加したり、観光大使として活躍したり、周囲から浮きながらも超然として、しかも周囲を巻き込んでゆく成瀬の姿は、現代のヒロインと言っても良い気がする。学校に馴染めなかったり、自分の居場所に悩む人へのエールにもなるかもしれない。その意味でも現代に求められる作品なのかなと思う。