もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

読書日記 8月

クー・ジャイン:ダーリンはネトウヨ

 韓国人留学生による日記。自分の先入観を極力排しても彼はネトウヨだと思うのだけど、それでも本書は日本人が無意識的に持っている自文化中心主義を分かりやすく鮮やかに描き出している。「日本語上手ですね!(外国人にしては)」とか、「日本語は世界一難しい言語」とか、謎の誇りを持っている日本人の姿。読み終えると、ちょっとバツの悪さを覚えるのは、彼が少なからず私の中にも居たからだ。かわいい画風の裏に、思想の刃が隠されている。

辻村深月:傲慢と善良

 小説はあまり読まないのだけど、面白くて一気に読んだ。架も、真実も、真実の両親も、他人を害さない善良さと、自分を無条件に肯定する傲慢さが併存している。もちろん、ここで言う「善良」も、一言で言えば社会性の無さ、経験の無さ、悪意に対する鈍感さなどのことで、まったく良い意味ではない。後半の真実編のどんでん返しが圧巻。婚活事情や共依存的な親子の描写、架の女友達の明るく陰湿なさま(それに対する架たち男性のなんと鈍感=善良なこと!)が妙に生々しくて面白かった一方で、真実の一連の行動は全く理解できなかったし、結末も私には理解できなかった(悪いというわけ決してではない)。

池内恵:サイクス=ピコ協定 百年の呪縛

 中東問題の根源は、1916年5月16日、第一次世界大戦下にイギリスとフランスがサイクス=ピコ協定によって中東を人為的に分割したからだ――と言う説明が「専門家」からも為されることがあるのだが、本書を読むとそう単純ではないことが分かる。サイクス=ピコ協定で策定された単純な分割案は実施されておらず、その後のセーヴル条約ではより実態に近いかたちでモザイク状に分割されたが、問題は全く解決しなかった。それどころかムスタファ・ケマルらの民族主義に基づく蜂起を促し、ローザンヌ条約でトルコ共和国の成立へと繋がってゆく。

 現代の情勢は、むしろ大元のサイクス=ピコ協定が結ばれた情勢に近いのではないか、という指摘が興味深い。ロシアの南下に対抗できない「弱すぎるオスマン帝国」を欧米はどこまで信じ、どこまで支えるのか?

山崎元:がんになってわかったお金と人生の本質

 金融評論家らしい割り切りの良さと、サービス精神溢れる文体が奇妙にバランスがとれていて心地良い。クールだけれど、クールすぎない。過去を悔いることを「サンクコストだから無駄だ」と切り捨て、「癌治療で最大のコストは機会費用である」と言うときの著者はともすると冷静すぎるようにも見えるけれど、抗がん剤で脱毛した姿を「下級の落ち武者」と表現したり、ユーモアにも富んでいる。なにより、癌患者となって生じた諸問題や、送る側として生じた諸問題に対する一つの参考例を伝えていて、まさに「役に立つ」「面白い話」になっている。自らの境遇を嘆くことがまったく無く、とにかく読者に伝えようとする熱意に胸を打たれた。