もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

トリイ・ヘイデン「うそをつく子」

 トリイ・ヘイデンの「うそをつく子」を読んだ。息をするように嘘をつき、さまざまな問題を引き起こす女の子の物語。家族に馴染めず、里親の家庭でも問題を引き起こして、すぐに施設へと帰される。誰もが彼女の虚言癖にうんざりして、半ば彼女を見捨ててしまうのだけど、著者のトリイは彼女と向き合い続ける。

 まともに内容も紹介せず感想だけ書いてしまうのだけど、読み終えて最初に感じたのは、一人の人間の心を解きほぐすには、これほどの手間が必要なのか、という疲労感。はっきり言えば、私自身もたぶんジェシーみたいな子が居たら、関わらないようにするだろうと思う。

 なんといっても、利得や楽しみのためではなくて、理由もなく嘘をつくのだから恐ろしい。そのうえで言い訳のためにも嘘をつくし、ときに攻撃的になって暴力を振るう。里親の家で放尿をして施設に帰されたりもしている。反応性愛着障害に対する知識を持った大人であっても、彼女の問題行動には全く歯が立たない。トリイが他の大人と違うのは、やはり根気強く接し続けたことだろうと思う。支援するためのプログラムはどこかで画一化せざるを得ない部分があるのだけど、その根本には人間対人間の数量化されえないところがあるということを教えてくれる本でもあると思う。

 ジェシーのケースは家庭的な問題があり、そこには社会的な背景もある。母親はうつ病でネグレクト傾向にあり、さほど年の差の変わらない姉が幼いジェシーの養育の多くを担っていた(この時点で何らかの介入が出来ていたら、というのは、私が結末を知っているから言えることだ)。子育てを担う大人たちが病み、子育てを助ける社会的な繋がりが薄れてゆけば、こういうことはこれからますます深刻になってくるのではないか、とも思う。けれど、そうした問題に光を与えてくれる本でもある。まだ、取り返しはつくのだと。

 著者は特別支援学級をはじめ、さまざまな難問を抱える子どもたちと接してきた人物だけれども、もちろんそれは常にうまくゆくわけではない。それでも、「シーラという子」などの前著から変わらず、一筋縄ではゆかない子どもたちに対して、愛情深くそして冷静に、根気よく接し続ける著者の姿勢に、私はただただ脱帽するばかりだった。人と向き合うって、大変だ。