もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

「いい度胸をしてるね」

 選挙でやたらと覚えていることがあるのだが、それは中学生くらいのころに街頭演説の真ん前を横切ったときの記憶だ。夏日だったような気がする。私は地元の駅に急いでいたのだが、なんだか多くの人が集まっているなあ、とは思っていた。急いでいたから選挙の演説だと気づく余裕さえなかったが、人が多いなとは思っていた。今になって考えれば、応援で有名な国会議員でも来ていたのではないかと思う。

 一番記憶に残っているのは、そのあとのことだ。横切った瞬間に、その市長候補らしき人物の横に居た背広姿の男が、冗談交じりに苦笑しながら「きみ、いい度胸してるね」と言った。私は理解せず、「はあ」と言った。振り返ってはじめて、そこで話しているのが偉い人で、選挙の演説の真っ最中なのだと分かった。

 実際、度胸も何もない。単に、知らなかった、気づかなかった、というだけのことである。あれ以来、他人から「いい度胸をしてるね」と言われたことはない。