もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

募金

 好奇心でビラを受け取ったら、まさか質問責めに遭うとは。

 駅前で支援団体がビラを配っていた。いったいどんな内容なのかと思って受け取ってみただけなのだが、これが第一の失敗。

 受け取って通り過ぎようとした途端、「ありがとうございます!!」と後ろから声が飛んだ。驚き振り向くと、職員なのか何なのか分からないご婦人がツカツカと歩み寄ってきた。

「募金はされていますか!?」

 すでに支援をしている人間がわざわざビラを受け取るだろうか……(ゆえに受け取る人は募金していないのが普通だろう)と思いながらも、私は下らない見栄を張って「ハイ」と答えてしまった。このしょうもないウソが第二の失敗。

 募金をしている善人と思われたい気持ちが隠せなかったか。うろたえながらも心のどこかで「いつだったか、どこぞの団体に、10円ぐらい寄付した気がする!」と自分を正当化したが、これは完全に記憶の捏造であった。

 私がハイと答えたとたん、ご婦人は目を輝かせてさらに詰め寄ってきた。

「どの団体にですか!?」

「…………」

「ほら、ユニセフさんとか、国境なき医師団さんとか!」

 墓穴を掘ったことを激しく後悔したが、もう遅い。私のイメージする「募金」とはコンビニのレジ横にあるような箱に入れるものだったが、目の前を見ればそこには募金箱すら無い。彼らの言う「募金」とは月額制の定期的な寄付を意味していた。

「……国境なき医師団ですかね」

「そうなんですね! Monthly で寄付なさっているんですか?」

「いや、そこで募金活動していましたから……」

 突如繰り出された Monthly の単語を聞き取れるはずもなく、頓珍漢な言い訳を繰り出した瞬間、ご婦人との間に微妙な空気が流れたのを感じた。それはそうだ。こうした団体は街頭での活動宣伝はするが、募金活動はしていないのだろう。つまり、あるはずがないことをしたと言い張る男が目の前に居るのだから。

 私は取り返しのつかない犯罪を犯した気分になって、とるものもとりあえず、坂道を転げ落ちるように、犯行現場から逃げ去るように、帰ってきた。私の手元にはティッシュでもなんでもない、最初からしわしわになっていた、一枚の紙切れだけが残った。