もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

運動オンチの幸運

 中学校の体育の授業、サッカーの試合で、ガリガリ運動オンチの私が運動神経抜群の不良少年*1を出し抜けたことが、私の人生でもっとも幸運な瞬間だったのではないか、と今でも思っている。

 運動オンチの私が「早く終わってくれ」と願っていたあの時間。よりにもよって他クラスとの合同試合。隣のクラスには不良で運動神経抜群のS君が居た。ちなみにS君の姉は私の姉と同じクラスだったが、私とS君はまったく接点が無かった。私にとっては「姉の同級生のSさんの弟のS君」という認識だった。S君は不良グループの一人だったと思うが、浅黒く日焼けしていて運動神経も良かった。

 あの当時の私は、とにかくサッカー部員にボールを回す職務を全うし、チームからの批判なく無事にこの試合を終えることだけを考えていた。敗因になったことを責められ続けるような陰湿なクラスではなかったが、足手まとい、役立たずと人格批判を受けるのはつらいものがあったからだ。

 記憶にあるのはほんの一瞬のこと。ボールが来て、右足で受けた。前方からS君が走ってきて、進路を阻む。「ボールを回さなきゃ!」と焦った私は、ボールに右足をかけようとしたのだけど、その足がボールの真上で盛大に滑って、足をかけたままボールがぐるりと輪を描いた。足首をひねるところだったが、この奇跡的なフェイントに、S君が「うまっ……!」と呟いたのが忘れられない。がら空きになった左側前方、チームメイトに向かって、情けない体勢で必死にボールを蹴った。あれは、私が唯一サッカーの時間で活躍した思い出だった。

 バスケットボールの時間でも一回だけあった。同じチームの不良の子が「パス!」と言うのを無視して、3ポイントラインの外側からシュートを放った(これがいかに罪深い行為で、どれだけ重大な決心が要るかは、今の男子中学生(特にまじめ系)にも伝わるのだろうか)。

 だが私はそのシュートを2回だけ打って、2回とも決めた。不良の子2人が「すげえ」と言ってくれた。試合待ちで見学していたサッカー部員のO君が、他の子と話しながら「シュートうまいんだよ」と言ってくれた。O君とはその前日に児童館で遊んでいて、そのときもバスケをした。いわばスクールカースト最上位のO君(それぐらいイケていたということ)がそう言ってくれたことは、かなり照れくさかった。もちろん、シュートが決まったのはただの幸運だと知っていたから、あとはボールが来てもパスに徹した。

 こうしたことは私以外の当事者には全く記憶にない出来事になっているだろうが、私にとっては一つの思い出になった。スポーツという、自分にとって最も苦手だった分野における、貴重な成功体験。そのためにまた体育の授業を受けたいとはとても思わないが、学生生活の義務は、そういうものも与えてくれた。

*1:不良という呼称はどうかと思うが、当時はそう呼んでいた。