もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

改札前の真剣勝負

 たった1つの改札をめがけて、二人の女性が横並びになってせっせと歩く。たがいに譲る気一切なしの真剣勝負。競馬場であれば誰もが馬券を握りしめて勝敗のゆくえを見極めようとするだろう、世紀の名勝負がここに繰り広げられている(わたしは競馬をしたことはないが……)。

 しかしながら、悲しいことに改札はひとつ。勝負の世界はどこまでも無慈悲で、残酷である。片方は勝者となり、片方は敗者となった。

 負けた方はパスモの入ったケースを端末にたたきつけ、相手をうしろから睨みつけた。改札を飛び出るとすぐに仇敵の隣に並び、追い越しざまに2度ほど振り返って睨みつけた。「くそばばあ」と語るその顔を見てわたしは、「”顔に書いてある”とはこのことなのだなあ」と思った。

 そして、改札の前でこのふたりに割り込まれたわたしは、このようにして勝負のゆくえを後ろから見届けていたわけである。そして彼女たちのあとから、マンホールを逆流して噴出する汚水のように、改札から吐き出されていった。