「あっ、幼稚園年少時代の先生と同じ匂いだ!」、と、瞬時に心のなかで思った。
香りの記憶というのはすごいもので、何十年も前のことを一瞬で思い出すこともある。
例えば風。ある瞬間の風が、過去の風景を思い出させる。
例えば家。レジもなく、そろばんをはじいていたおじいさんの商店の香り。失われた風景とともにある香りの記憶。
なにより、人、とくに異性にはそれを強く感じる。それが冒頭の話である。それは、香りの記憶を関係のない他人に投影してしまうこともあるということだが、その話を今ここでしてロマンチックな思い出を壊す必要もない。
じつは、3歳くらいのときに母の股に顔を押し付けて頭をひっぱたかれた記憶がある。匂いもなんとなく覚えているのだけど、その香りの記憶を思い出すことは、もうないのだろう。