電車で狐のような目をした女に睨まれ、おぞ気がした。
女性のそばに居たくない。男性のそばにも居たくない。面倒に巻き込まれたくない。へんてこな騒音を聞かされたくない。でも他人が読んでいる新聞や本にはちょっと興味がある。それがわたしの本音である。
棺桶のような電車があったらどんなに良いだろうかと思う。他人の新聞や本は分からなくなってしまうが、いまや大半の人はスマホをいじくっていて何をしているか分かったものではない。音楽を聴いているのか、語学のリスニングをしているのか、友人とチャットをしているのか、目の前にいる人間をネット上で誹謗しているのか、どれも外からみれば見分けがつかない(とは言いすぎではあるが、実際よく分からない)。
そんなことを思いながら席に座り、本を開いた。さいわい、森鴎外の『興津弥五右衛門の遺書(新潮文庫)』を読んでいた。遺書の部分はもの知らずには難解な候文(?)で書かれていて、読み進まないくせに開いただけで気だけは引き締められる。べっとりまとわりついたものを振り払うように読んだ。
- 作者: 森鴎外
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/06
- メディア: 文庫
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