もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

「白熱講義!日本国憲法改正」「キャリア官僚の仕事力」「孤独な娘」

03月26日:小林節「白熱講義!日本国憲法改正」

 したがって、私たち国民は、国家(権力者)が国民のためにきちんとサービスを提供し、権力を笠に暴走していないか、常に国家を管理する必要がある。それができるのは唯一「主権者・国民」だけである。そして国民が国家を管理するための規範となるマニュアル(手引書)、それが「憲法」である (本書, p. 56)。
◆タイトルが示すとおり、憲法は国民が国家の権力行使に制約を与えるためのものだということを「講義」し、そのうえで現代に対応した憲法「改正」を行うことを主張している一冊です。その関連で、自民党憲法改正草案に対しては、9条改正や天皇元首規定(勝手な造語)などに対しては”一定の”理解を示しつつも、憲法改正の条件(現憲法96条)の変更や、愛国心規定や家庭尊重規定といった、道徳的かつ国民に義務を課する記載を含む条項に対しては批判を加えています。

憲法の改正に賛成であれ反対であれ、憲法のはたらきについて考えたうえで、あらためて改正の是非を考えることができる一冊だと思います。


03月26日:中野雅至「キャリア官僚の仕事力」

◆キャリア官僚の仕事からみえてくるしたたかな仕事術を描き出している本です。ドラマで「官僚」といえば、その知識を利用して金儲けに保身にと悪事の限りを尽くしているエリートというのがよく描かれるイメージですが、実際には、国民や国会議員、業界団体、経営者団体労働組合といった全方位の人びとを相手に、しかもそれらの調整を図りながらの激務。その激務をこなすためには、情報処理・生産能力だけではなくて、情報入手のために飛び回るフットワークの軽さや、処理した情報を人に分かりやすく説明する能力、そして利害調整を行うためにゴマをするような交渉能力(と度胸)など、じつにさまざまな能力が、高いレベルで求められるといいます。◆上司をも騙して話を双方の妥協点にもってゆくというような、したたかな仕事術! その仕事術には、多くの社会人にとって必要なノウハウが詰め込まれていそうです。◆彼らの仕事場は、一方では怒号が、もう一方では議論熱が絶えません。さらに他方では、そんななかで自分の作業に完全に集中している人もいる。実際の官僚仕事やその官僚制度にある問題点も指摘しながら、その実態を活き活きと描き出している、面白い一冊でした。

03月25日:ナサニエル・ウェスト「孤独な娘」

 《孤独な娘》は、数年前うっかりして小さな蛙を踏みつぶしたときのような感じに襲われた。はみだした内臓は憐れみの情をそそるものだったが、蛙の苦悶が自分の感覚になまなましく伝わってくると、憐れみは怒りに変った。彼は気が狂ったように蛙を踏みつけ、殺してしまった (本書, p. 50)。
◆新聞の読者の悩みを引き受ける「孤独な娘」。それは新聞の読者を伸ばすための企画にすぎず、実際には読者に何らかの救いを与えるわけでもなんでもない。それでも「孤独な娘」には、彼に助けを求める人びとからの投書が絶えません。それは、まるで彼が、救いを与える神であるかのように。◆ところが「孤独な娘」は、彼らの苦悩が自身のうちにあることに気づきます。それは、みずからがもつべき価値を失ってなお宗教にすがる都市生活者を覆い尽くす憂鬱。

 両親もまた夢を作るための仕掛けなのだ。[……] メアリのような人たちは、こういう物語に支えられなければ何もできないのだ。彼らはこういう話が好きなのだ。なぜなら、服装や仕事や映画以外のことをしゃべりたいから。何か詩的なことについて語りたいから (本書, p. 66)
◆実際にはなんの役にも立たないアドバイスを送る「孤独な娘」にすがる人びと。人びとを救う「孤独な娘」自身をも巻き込んで都会を覆い尽くす憂鬱、虚栄。価値を失い、神(=孤独な娘)にすがることしかできなくなってしまった人びと。そんな憂鬱感をどこか冗談めかせて滑稽に語らせているところに、すこしの気持ち悪さを覚えた一冊でした。