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もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

乞食の老婆

 グリム童話に「乞食の老婆」と言うお話があります。ある若者が、外で寒そうにしている乞食の老婆を見て、「暖炉で暖まりなよ」と招き入れる。ところが老婆は暖炉に近づきすぎるあまり、その上着に火がついてしまう。老婆はそれに気がつかないまま暖まり続ける。そして若者はただその老婆を見ている……と言うお話です。

 この物語を見て、最初は「なんだこれは……」と思いました。強引に子ども向けのお話として読むならば、「この若者のようなことをしてはいけません。困っている人を見捨てるべきではありませんよ」というような訓話として読むことも出来なくはないのでしょう。それにしても随分ひどい話です。

 この物語について、グリム童話をはじめとするメルヘンを暴力から読み解く『首をはねろ!』という本では、老婆による精神的な暴力を逆手に取っている話なのだと説明されています。つまり、老婆は自分が弱者であることを装いつつ、その裏ではそれを強みに変え、救済をせよと若者に迫る。老婆に対する仕打ちは、このような精神暴力に対する憂さ晴らしのようにも思えます。

 そう考えると、この精神的な暴力というものは、今の時代にもあるのかなと。例えば、電車などで、目の前に老人が立っているとき。その老人から「譲ってもらって当然だ」といわんばかりのオーラを感じ取ることもあるかもしれません。そうすると、譲ろうと思っていたなけなしの善意もたちまち消え失せてしまう。いわば「乞食の老婆」ならぬ「電車の老婆」というわけです。こういう状況や心の動きがあってもなにもおかしくない。そうすると、まったく訳の分からなかった童話の世界にとっかかりができる。

 ずいぶんなこじつけのようにも思えますが、これはこれで面白いと思う次第です。