「おでんいかがでしょうか、おでんを300個売らないと帰れないんです!」
「ほ?」
まぬけな声を挙げてしまった恥じらいのなかで、「ははぁん、そうきましたか」と得心していた。売らないと帰れない。つまり「あなたは買うと言う選択をすることでわたしを助けることができる。にもかかわらず買わないということは、わたしを意図的に見殺しにすることだと言ってよい。あなたはわたしを見殺しにするのか」と言っているのだ。
…………いや、そこまでは言っていないだろう。
「ああ、またにしますね、粒あんまんをください」
「はい、またおねがいします」
この街にも寒気が流れ込み、あんまんの季節がやって来た。