もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

役所

「はい。このような規則になっておりますので」


 戸籍を盗まれたわたしは、戸籍を再発行してもらうために役所を訪れた。長年連れ添った冷蔵庫のように優しい女性職員が教えてくれた。


「戸籍の再発行には、戸籍が盗まれたという証明が必要です」


 わたしは見知らぬ国にほうり込まれた粗大ごみだった。命乞いをするしかなかった。


「ほんとうに無いんです」
「はい。ですから、あなたにはこれから10年間戸籍をお探し頂きます。それまで、あなたにはこの仮の戸籍を発行します。まずはこちらにご記入とご印鑑を」

 目の前に、見たこともない言葉で書かれた書類の山が現れていた。いちばん上のそれには「注意事項。この申請書は個人情報の適正なる取扱に関する方針に基づき権限を有する行政機関の長が個人が有する情報が盗難及び紛失が疑われる場合又はその他相応の事由があるというべきだと認められる場合において……」とある。

 腰が抜け顔面が紙くずのようになったわたしに出来ることは、もはや印鑑を押すことしかなかった。彼女の額に輝く真っ赤な太陽が、雲を吹き飛ばした青天に燦然と輝いていた。


ある図書館にて思う。