もの知らず日記

積み重なる駄文、天にブーメラン

優しい彼の怒り

 目の前をなにかがうろつく。第一に邪魔だと思い、第二に冬の厳しさが足りないのかと思いを巡らせる。それから、ごまつぶ程度の小さな虫、まあよく生きてるなと思いむやみに殺す必要もないから逃がそうと思った。窓を開け、「さあ、小さな命よ、外へお行きなさい」と、彼方に見える山々を見やる。――――それから彼は窓を閉め、小さな命を救ったことに満悦していた。幸せな気持ちでふたたび本を手に取り、分かったか分かっていないかも分からないような活字を追い始める。彼の目の前をなにかがうろつく。さっきの虫だ。彼は虫にバカにされたのだと感じた。そうしてなんの迷いもなく、この虫を殺さねばならぬと決意した。